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2008 研究概要

マイクロケルビン温度領域を含む広い低温環境下において , 凝縮系がしめす 顕著な量子現象の研究を行う。超低温実験設備を用いて , 超流動ヘリウム3 の表面・界面効果、回転超流動ヘリウムの物性 , 超流動ヘリウム表面に束縛 した電子系、イオンプールの非線形伝導現象、プラズマ共鳴、ミリ波吸収、量 子渦生成などの研究を行った。 GaAs半導体をベースとした縦型 2重量子ドッ トを製作し、電子スピン・核スピンに依存した量子輸送現象の量子情報処理へ の応用を視野にいれた研究を行った。さらに , 毛細管凝縮によるヘリウムチャ ネルを用いて単一電子制御を目指した実験など,ナノサイエンスに関連したテー マについて研究を進めた。

1. 超低温量子凝縮系界面物性の研究

  1. ヘリウム表面電子系のミリ波吸収の研究(Konstantinov, Dykman, Monarkha, 河野)

    ヘリウム表面上に形成される表面電子状態のサブバンド間ミリ波吸収と2次元 電子系の伝導度測定を組み合わせて遷移に伴うミリ波吸収と緩和過程の解明を 行った。2次元電子系の面内伝導度は電子温度に敏感である。これによってミ リ波の照射強度と電子温度の関係を求め,特徴的なホットエレクトロン効果の 研究を進めた。特に、電子間相互作用に起因する共鳴点のシフト、さらには共 鳴曲線の顕著な歪と周波数挿引方向によるヒステリシスの観測など、強い非線 形現象の実験的検証と理論的説明を行った。

  2. ヘリウム表面下イオンプールの非線形伝導現象の研究(高橋(大), 池上, 河 野)

    自由表面下に正イオン(Snow ball)を蓄積し,移動度のイオン速度依存性の測 定を行った。その結果、イオン速度がある臨界値を越えると急激に減少するこ とを発見した。この状態の転移はイオンの周りの流れ場が非回転な流れから量 子渦を伴う流れへと転移をすることに対応していると考えられる。臨界値には 特徴的な温度依存性が確認され、転移のメカニズムとの関連を研究中である。 今後、冷凍機を回転させた場合の影響について研究を進める。

  3. 2次元超流動薄膜の研究(斎藤, 池上, 河野)

    超流動ヘリウム3薄膜の流動特性の解明を目的として、櫛形構造をもつナノ電 極を用いたヘリウム薄膜駆動の研究を行った。超流動ヘリウム3薄膜の厚さを 制御して、常流動・超流動転移を起こさせることができる。今年度は、膜厚 0.1〜8ミクロンの範囲にわたり超流動転移の膜厚依存性を詳細に測定した。膜 厚を薄くしていくと超流動転移が抑制されることが確認され、理論的予測と定 性的に一致する結果を得たが、理論で期待されるよりもさらに強い抑制効果が あることが確認された。磁場下での測定でも同様な効果が得られた。

  4. ヘリウム薄膜および1次元ヘリウムチャンネル上の低次元電子系の研究 (Rees, 秋元, 池上, Leiderer, 河野)

    ナノギャップを持つ電極や毛細管凝縮したミクロンサイズの幅を持つ溝構造に より,ヘリウムチャンネルの上に捕獲した電子系の伝導度測定を行った。5〜 20ミクロンの単一チャネル上の伝導度測定では,電子系の固化に伴う強い非 線形伝導を観測し、 Bragg-Cherenkov機構によって説明されることが分かった。 電子の固化相転移における有限サイズ効果が始めて系統的に観測された。単一 電子制御に向けた基礎技術開発を行い、1次元電子配列の実現に目処が得られ た。ヘリウム薄膜上のポイントコンタクト伝導について、伝導現象の時間分解 測定を行った。

2. ナノ構造の低温量子輸送の研究

  1. 半導体 2重量子ドット素子の共鳴トンネル効果の研究(Sun,秋元, 大野, Lin, 河野)

    電子スピンg因子が互いに異なるGaAsドットと InGaAsドットを直列に結合させ た系において、低温強磁場中の共鳴トンネル効果を研究した。各ドットのゼー マン分裂幅が異なる場合におけるスピンボトルネック効果を観測した。ソース・ ドレイン電圧を変えることでスピンを選択的にトラップすることに成功し、ス ピン量子ビットの初期化等に応用可能である。

  2. 半導体量子ドットの核スピン効果の研究(高橋(諒), 大野, 河野)

    縦型量子ドットのパウリスピンブロッケード領域において、電子スピンとドッ ト内核スピンとの相互作用を研究した。この系では従来から電子スピン散乱と その反作用として ”上向き“核スピン分極の発生が観測されていた。今回新 たな素子構造と電子スピン g因子の最適化を行い、”下向き“核スピン分極の 発生が新たに観測された。これより、同一の素子でドット内の核スピンを任意 の方向に偏極させることが可能になり、将来の核スピン量子メモリとして利用 が期待される。

  3. 新しいナノ構造の作成とその機械的性質に関する研究(渡邊, 河野)

    ナノ構造の電子的・機械的性質を研究する目的で、新しい素材を用いたナノ構 造作成の技術開発を行った。大きなサイズのグラフェン薄膜を簡便に SiO2上 に作成する剥離方法を見出した。また、新しい観点での大面積グラフェン作成 手法を開発している。

  4. GaAs半導体 2次元電子系の量子ホール効果の崩壊現象と核スピン偏極の研究 (川村、河野)

    GaAs/AlGaAs半導体ヘテロ構造界面に形成される2次元電子系を用いて、量子 ホール効果崩壊現象にともなう動的核スピン偏極とそれを用いた核磁気共鳴の 研究をおこなった。試料に巻いた一巻きコイル用いて連続波交流磁場を印加し、 75As, 69Ga, 71Gaの核磁気共鳴スペクトルを測定した。さらに、フォトリソグ ラフィーにより GaAsホールバー型試料の上に作製した微小コイルを用いたパ ルス核磁気共鳴の実験を行い、自由誘導減衰、スピンエコー信号を測定した。

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